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7話 五感の目覚めと、憧憬の眼差し

Auteur: みみっく
last update Dernière mise à jour: 2026-03-17 13:54:01

「えへへ。ホントですよ~」

 彼女の口調からは、初めてユウと話した時の多少の緊張が消えて、親しみやすさが滲み出ていた。ユウは、その小さな変化が嬉しかった。目の前の可愛い女の子が、自分に対して心を開き始めている。この夢の世界で、ユウは初めて、現実の人間関係に近い温かい繋がりを感じていた。

 山菜と薬草が散乱した場所を片付け終えたミユは、再び森の奥へと視線を向け、集中して草花を吟味し始めた。小鳥のような足取りで軽やかに動き回り、腰をかがめては珍しい薬草を摘んでいく。

 ユウは剣を抜き、音もなく周囲を警戒していた。彼の鋭敏な聴覚は、再び魔獣が近づいてこないか、絶えず森の音に神経を尖らせている。しかし、その警戒の目は、自然と可愛らしい少女のミユの姿へと吸い寄せられていた。

 淡い栗色の髪が、摘み取りの動作に合わせてふわりと揺れる。微かに汗ばんだ彼女の肌から漂ってくるのは、土や草木の匂いに混ざった、ふわっとした甘い良い香りだ。それは、ユウが今まで触れたことのない、生身の女性の匂いだった。その香りを感じるたび、ユウの胸は小さく高鳴った。

 (しかし、妙だな……)

 ユウは自分の腹に手を当てた。ワイルドボアとの戦闘を終えてから、時間が経ったわけではないのに、胃の奥がグーッと小さく空腹を訴えていた。夢の中であるならば、このような現実的な生理現象が起こるはずがない。

 さらに、剣を握る右手のひらには、ワイルドボアの硬い皮膚を貫いた際の強烈な衝撃と振動が、まるでつい先ほどの出来事のように生々しく残っていた。それは、ゲームコントローラーの振動機能などでは再現できない、骨と肉に響く、確かな手応えだった。

 聴覚、視覚、触覚、嗅覚、そして味覚(空腹)。全ての五感が、これが「夢」ではないと訴えかけてくる。

 ユウは息を飲み、一つの可能性に思い至った。

 (実は……これって、よくアニメである転生というヤツなのでは!?)

 工場の爆発事故で死んだはずの自分が、オンラインゲームの能力と姿を持ったまま、異世界にやってきた。そうでなければ、この体、この力、この五感のリアルさは説明がつかない。

 普通なら、自分が死んだという事実にショックを受けたり、混乱したりするだろう。だが、ユウの心はそうではなかった。孤独な現実から解放され、最強の力と可愛い女の子との出会いを手に入れた今、彼の心のどこかで、「夢じゃなければ」と強く願っていたのだ。

 この世界が現実であれば、彼はもう、いじめの記憶に怯える必要はない。誰からも認められなかったユウではなく、力強く、誰かを守れる「ユウ」として、この新しい生をやり直せる。

 ユウの口元に、自然と笑みが浮かんだ。それは、不安ではなく、確かな期待に満ちた表情だった。

 ユウが「転生」という考えに行きつき、新しい世界での生に期待を膨らませていた、その時だった。

「ユウさん! ユウさん! これ、見てください!」

 ミユの弾むような声が、ユウの思考を現実に引き戻した。彼女は地面に座り込んだまま、摘んだばかりの小さな花を、その白い指先で優しく持ち上げていた。その琥珀色の瞳は、澄んだ好奇心で輝いている。

「これは『夜明け草』ですよ。乾燥させて煎じると、傷の治りがすごく早くなるんです。とても珍しいんですよ!」

 ミユは得意げにそう言って、無邪気な笑顔をユウに向けた。

 ユウは思わず口を開きかけたが、言葉が出なかった。夜明け草。それは、彼がオンラインゲーム内でポーションの材料として集めていた、最も基本的な薬草の一つだった。ゲーム内の知識が、そのままこの世界でも通用している。この事実は、ユウの「転生」の確信をさらに強いものにした。

 (やっぱり、夢じゃない……この世界は、ゲームの知識が通用する、俺がいた世界とは違う場所なんだ……)

 この認識は、ユウの心をこれまでにないほどの高揚感で満たした。彼はもう、陰湿な過去に縛られた、ただのユウではない。彼の力、彼の知識、そして彼が選んだ彼の姿――全てがこの世界では通用する。

「ああ、そうか。そりゃすごいな!」

 ユウは少し照れながら答えた。ゲームでは当たり前だった知識を、ミユが懸命に教えてくれていることが、何だか可笑しく、そして愛おしかった。

 ミユはユウの隣にそっと籠を置き、屈託のない笑顔を浮かべたまま、少し顔を近づけてきた。

「ねぇ、ユウさんは、どうしてそんなに強いんですか? ワイルドボアをあんなに一瞬で……。お強いですし……もしかして、旅の騎士の方ですか?」

 ミユの吐息がユウの耳元にかかり、ユウの全身がびくりと震えた。彼女の大きな琥珀色の瞳が、真っ直ぐにユウを見つめている。憧れと尊敬の念が込められた、その純粋な視線に、ユウは再び顔が熱くなるのを感じた。

 現実世界で、人から尊敬の眼差しを向けられたことなど、一度もない。いじめられ、見下され、透明な存在として扱われてきたユウにとって、この問いかけはあまりにも甘美な響きを持っていた。

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